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第10章「社会資産を形成する住宅」

日本の住宅文化を破壊したハウスメーカーと新建材メーカー

持家であれ、賃貸住宅であれ、日本の住宅の寿命は25年から30年、欧米の住宅と比較して非常に短い年数です。アメリカでの住宅寿命は70年から80年、欧州では100年以上です。日本の住宅が短命である原因はどこにあるでしょうか?私の実家は奈良の郊外にある大和葺きの民家です。妻の実家は京都の都心に残った町家です。共に明治時代に建てられ、優に築後、100年を経過しています。幾世代にもわたり、修理され大切に使われてきました。奈良の民家には私の両親が健在で、京都の町屋には妻の父と私の妻、二人の子が元気に暮らしています。どちらの建物も今でも頑丈な構造で、住宅として充分機能しているばかりか、時を刻んだ外観、使われている建材、その建材を加工した当時の職人の技には文化財的な価値さえあります。戦前の日本家屋には確かに住宅文化が存在したのです。そして今に残る日本の住宅文化は国内ばかりか海外でも高く評価されています。かつては日本に存在した世界に誇れる住宅文化、それを破壊したのは地震や台風の自然災害ではありません。日本の住宅文化を破壊したばかりか、世代を経て継承されてきた資産としての住宅を消耗品にまで堕落させた原因は戦後に勃興し、日本経済の成長期に隆盛を極め、そして今なお日本の住宅産業の中枢にいるハウスメーカーと彼らに追随した新建材メーカーにあります。

住宅の価値について

住宅の価値を決定する要因に機能と性能があります。住宅における機能とは、家族が何人まで暮らせるか、リビングはゆとりの広さか、収納スペースは充分あるかどうか、簡単に言えば間取りです。性能は昨今、特に注目を浴びていますが、住宅では断熱性、耐震性、安全性等です。冬に暖かく、夏に涼しいこと。光熱費を節約でき、環境に優しいこと。地震や火事に強いこと。セキュリティーがしっかりしていて、健康にも配慮されていること。これらの機能と性能が満たされてはじめて、住宅は商品としての価値を持ちます。

けれども、機能と性能だけが住宅の価値を決定する要因ではありません。ライフスタイルの変化により住宅に求められる機能は移り変わり、技術の進歩により性能は進化します。建てた時は最新の住宅であっても、10年経てば当時の機能と性能は陳腐化し、20年も経てばその価値はなくなります。機能と性能に代表される住宅の商品としての価値は時間と共に減少する運命にあります。自動車や電化製品ならば、古くなれば新しいものに買い替えればいいのですが、30年以上の住宅ローンを組んで購入する住宅に同じ考えは通用しません。住宅の価値、それも単なる商品としての価値ではなく、大切な資産として長期間にわたり維持される住宅の普遍的な価値を決定する要因が別にあります。それは、住宅のデザインと素材です。

美しいという価値

仕事や旅行でヨーロッパの国々を訪れれば、驚くことがあります。それはまるで絵画のように美しい街並みと美しい建物です。都心部であれ、郊外であれ、古くからの建物が整然と調和して美しい街並みを形成しています。建物に統一感がない雑然とした日本の都会、安っぽいプレハブ住宅が建ち並ぶ日本の郊外の住宅地に比べて、そのあまりの違いに驚き、そして感動します。ヨーロッパでは家造りは街作りと一体化し、豊かで美しい住宅資産を、メンテナンスを施し何世代も前から受け継いできた伝統が今も残っています。

ヨーロッパにおいて建物は決して消耗品ではありません。ヨーロッパでは丹念に手入れされた建物は店舗であれ、オフィスビルであれ、住宅であれ、古ければ古いほどに価値があります。その価値を支えているのは建物の普遍的で美しいデザインであり、時と共に風合いと情緒を増す建物に使われている煉瓦、石、漆喰、ムク木材等の美しい素材なのです。美しいから、人はそれを大切にします。大切にされるから、それは長持ちします。長持ちするからこそ、そこに資産としての価値があるのです。美しいことが劣化しない価値を形成します。

日本の住宅が消耗品であり、築20年で市場的に何の価値もない不良資産となる原因のひとつがハウスメーカー主導のあまりに稚拙な住宅デザインと新建材メーカーの工場で大量生産されるあまりに貧弱な塩ビ製の住宅建材にあります。人は美しくないものを大切にしません。誰が見ても美しいと感じる、いつ見ても美しいと感じる普遍的は住宅デザインと年と共に魅力を増す住宅建材を無視して、住宅の耐久性を語ることはできません。

住宅工法と部材のモジュール化

日本の住宅が短寿命であるもうひとつの理由がハウスメーカー、工務店ごとに違う住宅工法と建材メーカーごとに仕様が異なる住宅部材です。日本の戸建て住宅の大半は木造軸組み工法で建てられています。分類すれば同じ木造軸組み工法なのですが、実際は建築会社ごとに柱の寸法が違えば、その間隔も違います。使う金物も違えば、耐力壁の取り方も違います。同じ工法と言っても、実際は千差万別、決して共通した基準を持った工法ではありません。それ以外にも鉄筋コンクリート造、鉄骨造、木質パネル、ツーバーフォー等の工法が住宅に使われています。その中で世界共通の基準を持つツーバーフォー工法を除けば、どの工法もハウスメーカーごとに基準は種々様々、それぞれが独自の工法です。住宅建材も内装ドアを例に挙げれば、日本では建材メーカーごとにドアのサイズが違います。使う金具が違えば、それを付ける位置も違います。ドア枠の幅も工法ごとに違います。ハウスメーカーの住宅で使われるドアはその会社の建てる住宅にしか使われないオリジナルドアです。

市場全体での生産性を考えずに、建築会社や建材会社が自社の都合を優先した結果、日本の住宅は新築価格が高いのに、古くなればすぐに価値がなくなるという矛盾を内包します。国土交通省(旧建設省)、経済産業省(旧通産省)にもその責任が多々あるのですが、日本の住宅には市場規模でのモジュール(標準仕様)が存在しません。そのために工法や部材に関する情報、生産設備を共有できず、新築住宅は生産コストが高くなります。また中古住宅はそれを建てたハウスメーカーにしかメンテナンスやリフォームができなくなり、建材は使われてから10年で補修用の部品すらなくなります。そのために日本の住宅は長期間での維持コストが高くなるのです。維持費の高い中古住宅は市場で評価されません。日本の住宅は築後20年から30年も経てば、建物の価値が全く評価されない古家付きの土地として不動産市場にだされる、まさに消耗品なのです。

北米には日本にあるような大手ハウスメーカーは存在しません。北米の住宅生産を支えているのは地域に根ざしたホームビルダーです。そしてほぼ全てのホームビルダーが同じ基準のツーバイフォー工法で住宅を建築しています。北米では小規模のホームビルダーが工法を共有することにより市場全体での生産効率を高め、日本の住宅に比べればはるかに低価格で高品質の住宅を市場に供給しているのです。また、北米の住宅に使われる建材はその寸法やデザインまでが徹底的に規格化されています。北米の住宅にはその価値を社会的に維持することを前提に明確なモジュールが存在します。共通したモジュールを持つ住宅はどのホームビルダーでも容易にメンテナンスやリフォームができ、必要な部材はいつでもホームセンターで入手できるのです。だから、北米の住宅は古くなっても価値が落ちないのです。

日本では2005年に住宅品質確保促進法が制定され、性能表示制度も整いましたが、住宅の機能と性能、品質がどれだけ向上しても、ハウスメーカーや工務店が従来のようにバラバラの工法でバラバラの基準の建材を使い住宅を生産している限り、日本の住宅は豊かな成熟社会を支える社会資産を形成できそうにありません。伝統的で美しい外観、時と共に風合いを増す建材、どんな人もどんな家族も快適に暮らせる普遍的な間取り、そして工法と建材の徹底的なモジュール化、これらの要因が揃って初めて日本の住宅は次の世代に負債ではなく資産として引き継げる真の社会資産を形成するのです。

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