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第7章「アパート市場の現状を概観して」

空き家率(空室率)15%の時代

2008年の総務庁、住宅・土地統計調査によれば日本全国の総住宅数は5759万戸、総世帯数 は4726万戸でした。空き家は756万戸に増加し、空き家率(空室率)は前回2006年調査の13.6%から14.6%に上昇しました。それ以前から続いた出生率の低下に伴い2005年、遂に日本の人口は減少に転じました。世帯数は晩婚化による若年世帯と70歳以上の高齢世帯の増加により、2015年までは微増しますが、それ以降は人口、世帯数共に減少の一途を辿ると予想されています。このペースでは今から十年後の2020年には空き家率(空室率)は20%に達する勢いです。更に2040年には空き家率(空室率)は40%に達すると予測する人もいます。

それでも、大手ハウスメーカーの新築アパートの供給は止むことがありません。空室に対する不安を逆手に取り、30年一括借上のテレビコマーシャルを放映し、虚実の家賃保証で地主を欺き、新たな物件が続々と建てられています。2009年も賃貸住宅は低金利を背景に32万戸が着工しました。また、自称不動産コンサルタントは相変わらず年金問題、老後の収入への不安を煽り、不老所得の魅力を説き、著書を出版、セミナーを開催しては、不動産に縁もゆかりもない一般の人々に中古の収益物件を斡旋しています。物件を買った人には所定の仲介手数料だけでなく、コンサルティング費用まで請求します。同じ業界の立場から、私はこれらの状況に憤りすら感じます。借りたい人が減っているのに、貸したい人と貸したい物件が益々増える。人口減による空室の増加、今後、この傾向により一層の拍車がかかります。

大家さんの悲鳴

今年も全国賃貸住宅新聞社の主催で賃貸住宅フェアが東京のビックサイトで開かれました。今年はプリマ倶楽部で、私は出展者として参加したのですが、同じ会場で開かれていた空室対策のセミナーには立ち見の人が出るほど多くの人が参加し、真剣に講師の話を聞いていました。出展企業のブースも太陽光発電等のエコ商品以外では、空室を埋める商品やサービスを提供する企業のブースが来場者の関心を浴びていました。開催期間中、会場は自身の所有するアパートの空室を埋める打開策を見つけようする大家さんで溢れていたのです。2日間で総計3万人の来場者に賑わった賃貸住宅フェアでしたが、その会場は追い詰められた大家さんの悲鳴が木霊するかのように、私には感じられました。

金融機関のフルローンが使えた2005年前後に中古の収益物件を取得し、今ではローンの返済と経費が家賃を上回る、逆ザヤ物件に悩むサラリーマン大家さんが多くいます。彼らは、経済的自由どころか、受取る家賃だけでは払い切れないアパートローンの返済を給料から補う、経済的負担を強いられています。不動産投資コンサルタントを自称する宅建業者に勧められ、不労所得に憧れ、高利回りに誘惑されて、彼らは買ってはいけないものを買ってしまったのです。買ってしまった以上、その被害が拡大しないうちに損切りすることをお勧めします。値千金の損切りです。将来ある時点で、金利は必ず上昇の局面を迎えます。その時は変動金利のフルローンという爆弾に命まで取られることになります。投資に損切りは付き物です。値千金の損切りです。

加速する家賃の下落

戦後、賃貸住宅市場は、住宅不足による貸し手市場の時代が長く続きました。増え続ける人口と核家族化する世帯が常に新しい住宅を必要とし、賃貸住宅は建てる場所さえ大きく間違えなければ、どんな建物でも建てれば入る時代です。当時の賃貸住宅の約90%が地主層により建てられています。高度成長下において、地主層の中低層賃貸住宅の建築工事を請け負ったのがプレハブのハウスメーカーです。ハウスメーカーは日本全国の農協と利益供与の提携を結び、都市計画法により市街化区域に指定された農地を持つ地主層に対する活発な営業活動で、工場生産のプレハブアパートが首都圏、地方の中核都市近郊に続々と建てられました。

建てる会社は違えども、建てられるアパートはどれも同じような間取りの同じような建物、おまけに同じような家賃、競争原理が働きようのない市場がそこに形成されました。結果、賃貸住宅市場は他の市場に比べて、圧倒的に未熟なまま今日に至ります。資本主義経済においては、どのような商品であれ、より良いものを、より安く、より良いサービスで提供しようとする市場での競争により商品の質とその市場の質が向上します。賃貸住宅市場という、昨今までそんな競争原理とは無縁、今なお旧態依然とした市場に、にわかに供給が需要を上回り、これまで続いた貸し手市場が借り手市場に変貌する事態が発生すればどうなるでしょうか、市場原理により家賃の値下げ合戦が始まります。それ以外に自身の物件を差別化する術がないからです。空室率の上昇に伴い、今後は家賃相場の下落が加速されます。

空室対策は属性の低い入居者を囲い込む

アパートの空室対策に関しては様々な著書が出版され、セミナーも数多く開かれています。しかし、残念ながら、空室を解決する根本的な策などありません。何故ならば、賃貸住宅事業は初期に設定された要因が物件から発生する収益の八割を決定してしまう事業だからです。初期設定される要因は場所と建物です。日常清掃、定期的なメンテナンス、リフォーム、入居者の募集方法、家賃の設定等、その運営に関わる要因により残り二割の収益が決まります。

元々の初期設定に瑕疵がある物件、建築当時に適応した設定が今では適応しなくなった物件は今更どのような空室対策を施しても、そこから収益を上げることは至難の業です。敷金、礼金を無くし、家賃を下げ、フリーレントを付け、仲介業者に何ヶ月もの広告料を払い、無理をして空室を埋めようとする努力は、裏を返せば、属性の低い入居者を囲い込む努力に等しく、たとえ空室を埋めたとしても、今度は家賃滞納と入居者が引き起こす様々なトラブルに苦しむことになります。

確かに、地方の物件を所有し、高い収益をあげている人もいます。彼らは直接、裁判所に出向き、競売物件を入札、自分でリフォームし、仲介業者、入居者とのコミュニケーションを欠かさず、プロも思いつかないような奇抜なアイデアで物件を満室にしているのです。単に収益物件を所有し、管理会社に任せ放しで、収益を上げている訳ではありません。彼らは基本的には専業大家さんで、そこには日々の労働があり、自身の絶え間ない努力で、市場から見放された物件から収益を上げているのです。彼らの著書を私も何冊か読みましたが、その内容は副業大家さんが参考にしても、決して真似のできることではありません。

家賃滞納の増加と強まる消費者保護の風潮

そして空室率の上昇と家賃の下落以上に、大家さんを今苦しめている問題が家賃滞納の問題です。入居者がいるのに家賃が貰えない問題です。この問題は空室よりも更に深刻な問題です。空室は入居者を募集することができますし、発生しない家賃を計上する必要もありません。それに対して家賃滞納の物件はそこに住む人がいるので、当然、新たに入居者を募集できません。更に、家賃は発生していて、回収できていないだけなので、未収金として帳簿に計上しなければなりません。家賃滞納者の立退きを完了させ、未収家賃を損金計上するまで、確定申告上は収入とみなされ、貰ってもいない家賃に税金まで課税されるのです。これは、アパート経営のキャッシュフローを悪化させる由々しき事態です。

景気の悪化に伴う派遣切り、リストラ、勤務先の倒産、給与とボーナスの減少、家賃滞納を引き起こす原因は社会情勢的に多々あります。入居者は家賃を払いたいけれども、払えないのです。納得は行きませんが、心情的には理解できます。許せないのは家賃を払えるのに払わない入居者です。数千円の給食費を払わない親と同じです。日本人のモラルの低下がその原因です。日本人のモラルの低下は、戦後の間違った民主主事的教育、道徳教育の不備に起因しますが、道徳を欠如した親に育てられた子が成人し、日本人のモラルはこれからなお一層低下します。今後は、経済的理由以上に入居者のモラルの低下が家賃滞納の原因になると私には思われます。

たとえ家賃滞納が発生しても、悪意で滞納する入居者も含め賃借人は借地借家法により弱者として保護されています。数ヶ月の家賃滞納を理由に入居者を立退きさせることはできません。法的措置による立退きには1年以上の期間と多大な弁護士費用が必要となります。更に、立退き後は、部屋の原状回復に多大な費用が発生します。数年にも及ぶ家賃滞納者に夜逃げされた大家さんは、辺り構わずゴミが放置され、原状が分からない程に傷つき、汚された部屋を見た時、絶望的な気分になります。そして立退きに要した費用はすべて大家さんの負担なのです。賃貸住宅業界においても今後、消費者保護の風潮は益々強まる傾向にあります。

アパート市場の現状を概観して

空室率の上昇と家賃滞納の増加、家賃の下落と入居者モラルの低下、強まる消費者保護の風潮、アパート経営はもはや、持っているだけで収益が上がるような事業ではありません。それどころか、今後のアパート経営は大家さんが多大な精神的ストレスを受ける事業となります。決して、中古物件を安く買って、副業でできるような楽な事業ではないのです。

アパート市場の現状を概観して、大家さんを希望する多くの人々に、私ははっきりと申し上げます。アパート経営なんて、嫌なことばかりで、儲かる商売じゃないですよ、これから人がどんどん減っていくのに、今更、大家なんかになってどうするの?

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