第5章「初めての3棟プロジェクト プリマ新横浜」
2010年の1月に神奈川県逗子市にある不動産会社からアパートの新築を計画しているY氏を紹介されました。Y氏の所有するアパートの計画地は横浜市港北区大豆戸町、新幹線の停まる新横浜駅から徒歩5分のところにありました。敷地の広さは約200坪、アパートを計画する以前は建設会社に貸され、現場事務所と資材置き場として使われていました。新横浜は新幹線の線路を挟んで駅の北側と南側でその様相が一転する不思議な街です。駅の北側は新幹線の開通に合わせて開発された商業地です。シティーホテルやオフィスビル、商業施設や高層マンションが林立し、近代的な都市空間を形成しています。一方、駅の南側は昔ながらの住宅地です。広大な敷地の旧家の屋敷、戸建住宅、商店、新旧のアパート、駐車場が混在する地域です。駅の南側にも以前から土地区画整理事業による再開発計画はあったのですが、住民の反対で進まず、道路幅は狭く、今なお下水道も都市ガスも整備されていません。Y氏のアパートの計画地はこの新横浜の駅の南側にありました。
新横浜での計画は敷地面積が広く、整備が遅れているとはいえ、新横浜駅から徒歩5分以内の好立地、計画地には相当な資産価値があります。また、Y氏の親族にも計画地の周辺に土地を持っている資産家が何人もいます。もしこの案件を契約できれば、プリマが横浜の北部地域に進出する大きなチャンスとなります。私がY氏に会ったとき、Y氏は既に数社のハウスメーカーからプランと見積もりを受け取り、その内のA社と近日中にも契約する予定でした。私に与えられたチャンスはワンチャンス、新横浜の計画に際し、私はこれまでにない緊張を感じました。
Y氏に会い、パンフレットと施工写真でプリマの説明をしてから、1週間で私はプリマ3棟24室の計画案を作成しました。建物プランを作成する前に、私はそれぞれの敷地が建築基準法で共同住宅に求められる接道義務、4m以上、道路に接するように、200坪ある敷地を申請上3つの敷地に分割しました。将来相続が発生したときに敷地を分筆すれば、同じ敷地に建つ3棟のアパートのそれぞれが独立したアパートになります。通常、同じ室数ならば、棟を分けずに1棟で建てる方が経済的なメリットがあるのですが、それでは相続の際に、他の資産で相続税が払え切れない場合、物件全体を売却する必要があります。3棟を別々に建てておけば、その内の1棟を売却し、相続税を支払い、残った2棟を相続人が収益物件として持ち続けることも可能となります。また、相続人が複数いる場合、共有名義で相続するのではなく、それぞれのアパートを単独名義で相続することも可能となります。相続対策としては、多額の建築資金を金融機関から借入れるのが一般的です。借入れの残債はそのままの額がマイナス資産となり、借入れによって建てた建物の資産評価は実際の建築資金の5割程度になります。その建物の評価差額が相続に際し有利に働くのです。地主の資産家がアパートを建築する場合、建築資金が多ければ多いほど、評価差額も多くなり、その分相続税も軽減されるのです。ですから、相続対策で建てられるアパートは建築資金が高い鉄骨や鉄筋コンクリートの物件が多いのです。プリマはツーバイフォーの木造アパートです、建築費は安く、さらに法定償却の期間も22年しかありません。地主の資産家であるY氏にアパート計画を提案するに際しては、単に負債を負うこと以外の何らかの相続対策が必要だったのです。それが、私がプリマ新横浜で提案した申請上の敷地分割による同じ敷地に建つ3棟の独立したアパート計画でした。
プリマ参番館のモデルルームにY氏を案内し、私は新横浜でのプリマのプラン案と収支計画を説明しました。Y氏は私が提案した3棟の独立したアパートによる相続対策と、初めて実際に見たプリマを大いに気に入られました。また、利回りが16%、家賃からローンの支払いと経費を差し引いた事業収入が契約を予定していたA社での計画より年間500万円以上増えた収支計画にもY氏は満足でした。しかしながら、提示されたプリマの見積もりにY氏は不安を感じられました。私の提示した3棟24室で1億4千万円の見積もりはY氏が思っていたより安すぎたのです。A社での工事費は2億4千万円、家賃保証が付いていましたが、私が提案したのと同じ単身者用24室の鉄骨3階建てのプランで1億円もプリマの見積もりが安かったのです。
理由なく単に価格が安いのは人を不安にします。Y氏は安い理由を私に問いました。私はプリマが決して安いとは思っていません。プリマの受注に会社は適切な建築利益を得ています。その利益により私も、社員も給料を得て、生活しているのです。プリマが安いのではなく、A社の見積もりが高すぎるのだと、私はY氏に説明しました。プリマの受注の多くは紹介と口コミで、宣伝広告費は最小限にしか使っていません。プリマは全て現地生産なので、工場の設備投資も維持管理費も不要です。プリマはツーバイフォーという北米基準のオープン工法を使い、デザイン、企画開発は私自身で行い、当初に建てたプリマは私個人の物件です。プリマに関する研究開発費は全く必要ありませんでした。モデルルームも私が所有するアパートの1室を使っているだけです。スターホームは社員十数名の中小企業で、官僚の天下りもなければ、政治献金もしていません。建てた物件の家賃保証も不要で、その為の準備金も不要なのです。要するに、大手ハウスメーカーは実際に建てる物件の材料や労務費以外に掛かる経費が多すぎて、どうしても建築費が割高になってしまうのです。ハウスメーカーの販売価格の約5割は経費と利益です。プリマが決して安い訳ではないのです。それと、ハウスメーカーでは同じアパートであっても、建てる場所により販売価格が違います。家賃が高い都心部での販売価格は家賃の安い地方より、一般的に高く設定されます。それでも、都心部の地主はアパートローンが支払え、利が回るからです。プリマは定価を設定し、建てる場所が違っても同じ価格で販売しております。プリマが安い訳ではないのです。Y氏は私の説明に納得され、モデルルームの見学から2週間後、私はY氏からプリマ新横浜3棟24室の請負契約を頂きました。
契約後、総敷地500m²以上の計画に要する開発行為の許可と3棟それぞれの建築確認申請を受け、プリマ新横浜は2010年5月に着工しました。本体工事の着工後、私はY氏と外構工事の打合せを始めました。建物のプランはプリマガーデンのプランを一部変更して、外観デザインはプリマ五番館のデザインで契約時に決まっていたのですが、外構工事は契約時に予算を決めただけで、建物の配置と駐車場の位置が決まっていただけで、その具体的な内容は全く未定でした。
それ以前のプリマはひとつの敷地にひとつの建物が建つ、単体での計画が多く、敷地の中に空地も少なく、外構は建物の前にシンボルツリーを植え、道路との間に御影石のピンコロを敷くだけで済みました。プリマ新横浜以前のプリマでは本格的な外構は必要なかったのです。建物の着工後、プリマ新横浜の外構計画に悩んでいた折、私が以前勤めていた建材商社の元上司から一人の人を紹介されました。TIME&GARDENのH氏です。H氏は世界全国から主にエクステリア部材を輸入、販売している会社の経営者でした。
H氏はエクステリア商品のカタログとサンプルを持って、スターホームの逗子事務所に来ました。その時にH氏から提案された部材がまさにその時、私が求めていた部材でした。ロートアイアンの門とフェンス、大理石の割り石、ピンクのピンコロ。ヨーロッパテイストのプリマのイメージにピッタリの部材です。手造りで、華美でなく、飽きないデザイン、そして納得できる価格。それらの部材に触発され、私の頭の中で、プリマ新横浜での外構計画のイメージが一気に具体化しました。建物の部材のみならず、エクステリアの部材においても、日本の建材は価格が高いだけで、チープな商品ばかりです。建物でも、外構でも、ひとつひとつの部材が全体のイメージを造ります。その時にH氏から提案された海外のエクステリア部材がプリマ新横浜の外構計画の全体イメージを決定したのです。そればかりか、H氏のエクステリア部材は、その後のプリマの外構工事の標準部材となりました。
プリマ新横浜は建築工事の完了後、外構工事に約一ヶ月の工期を取り、2010年10月に全体工事が竣工しました。煉瓦貼りの建物を囲む植栽、アイアンのフェンスと門扉、天然石の敷き詰められたパティオ、野鳥が羽を休めるシンボルツリー、外構が建物の魅力を更に引き立て、プリマは益々その完成度を高めました。10月という人の動きのない時期に竣工したにもかかわらず、プリマ新横浜は、入居者の募集を開始して、約一ヶ月で3棟24室が満室となりました。
それ以前のプリマでもよくあったことなのですが、プリマ新横浜は、必要なまさにその時、必要な人と必要な情報を引き寄せる理屈を超えたプリマの持つパワーを私自身が更に強く認識した物件となりました
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